高校生と永遠のこと



『終わりがあるから楽しいんだよ』
学校からの帰り道
卒業したくないと嘆く僕に彼女は言った
吐く息は白くて空気はツンと冷たい
駅のホームで別れ、
彼女は反対側のホームに向う
僕は肩に掛けたエナメルバッグを
地面に置き、ベンチに座った
こんなに寒いのにあと15分も電車が来ない

『永遠なんてどこにも無いよ』
前もこんなことを言っていた
彼女はいつだって
終わりの準備をしていて
終わる事を当然のように受け入れる
『永遠に高校生でいたい』と
心の底から思っていた僕は
そんな自分が少し恥ずかしくなって
あの時から彼女が急に大人に見えた

手が悴んできた頃、ようやく電車が来た
この時間帯の電車には帰路につく
サラリーマン達がたくさん乗っている
僕もいつかこのうちの一人になるのかと考えると、やっぱり永遠に高校生でいたいと思ってしまうが、
これは単なる逃げだと知っている
それに、永遠が本当に存在するだなんて
思っている訳ではない
今までだって始まったものはちゃんと全部終わってきたし、いずれ人間は死ぬ
でも僕はまだ、『永遠』という言葉に縋りたい
『永遠』という言葉を作った人間だって
絶対に無い『永遠』に
その言葉に縋りたかっただけなのだ
最寄駅に着くまでの30分間、
ぼんやりとそんなことを考えていた

この頃の僕は
次々と将来を決めていく友達に
自分だけ置いていかれるような
焦燥感と不安で押しつぶされそうだった
数えきれない未来から、どうしてそれを選んだのかを全員に聞いて回りたかった
自分が走って追いつくのではなく
みんなに止まって待っていてほしい
手をつないでみんなで一等賞を取りたい
いま同じ教室にいるのだって
ここにいることを決められているからで
チャイムが鳴って扉が開けば
足早とみんながそれぞれの目的に向かう
パタパタと音を立てて居なくなるのだ
第一ボタンまでしっかり留めたシャツも
学生手帳もこの制服も窮屈なルールも
もうすぐ何の意味も成さなくなる
彼女との帰り道も数えるほどしかない
そのことが堪らなく寂しいし
みんなにもそうであってほしいと思ってしまう

一刻一刻終わりに近付いていることも
『永遠』が無いのことも知っている
ただ、『終わりがあるから楽しい』と言った彼女に、僕との毎日が、高校生活が、永遠に続けばと思ったことが一度でもあったらそれでいい
家に着き冷たい手をお湯で解きながら
ふとそう思った